数あるカクテルの中で、別格の存在を放つマティーニ。ある人はカクテルの王様と呼び、ある人はカクテルの魔界と呼ぶ存在。
マティーニだけをまとめたカクテルブックも発売されるなど、他のカクテルとは一線を画しています。今回は、そんなマティーニの奥深い世界を少しだけ覗いてみましょう。
そもそもマティーニとは?

ドライベルモット
マティーニはドライジンとドライベルモットのたった2種類のお酒をステアして作るカクテルです。
おそらく人気の背景の一つには、このシンプルさもあるでしょう。相性のいい2つのお酒を混ぜ合わせるため、余程のことがない限りマズくはなりません。

ドライジン
しかしステアの仕方、氷の溶け具合の見極め方など味を左右する要素は無数にあります。単純なものほど難しいとはよく言ったもので、シンプルだからこそこだわりが生まれてしまうのです。
レシピが違ってもマティーニ!?
カクテルは一つの人気カクテルが誕生すると、様々なバージョン違いが誕生します。
例えばサイドカーという、ホワイトキュラソーとレモンジュースをシェイクするブランデーベースのクラシックカクテルがあります。しかしベースがウオッカに変わればバラライカですし、ジンになるとホワイトレディ。ラムベースになるとXYZと名前が変わります。
このように、カクテルは似ていてもベースとなるお酒が変わったり、製法が変われば別の名前のカクテルとして成立するのです。
しかしマティーニの場合は違います。
ベースにジンではなくウオッカを使ってもマティーニです。
さらに言えばウオッカベースでステアではなくシェイクして作ってもマティーニとなります。
ちなみに最後のレシピはスパイ映画の007で主人公ジェームズ・ボンドが作り方を指定したことからボンドマティーニの名前で呼ばれています。
このようなカクテルはマティーに以外には存在していません。これこそマティーニの奥深さと言えるでしょう。
最近はドライ傾向に拍車がかかっている
標準的なマティーニのレシピはドライジンが3に対してドライベルモットが1という割合です。よりドライにと指定しても、6:1の割合が限度だというバーテンダーもいます。
しかし現実には、殆どドライベルモットを入れないマティーニが好まれる傾向が強まっています。ステアに使う氷をベルモットで洗って、ベルモットは捨ててしまい、氷の表面に残った分だけで作るなんてのも良く見かけます。
ですが標準的なレシピのマティーニには、確かにお酒同士が出会い新たな味覚を生み出すカクテルならではの旨さがあります。
一度くらいは基本に戻ったマティーニを飲んでみるべきでしょう。
マティーニが王様となった理由
マティーニがこれほどまでに特別視されるようになったのは、禁酒法廃止後のアメリカ社交界がきっかけでした。
当時のF.ルーズベルト大統領は、マティーニの愛飲家でホワイトハウスでの執務終了後に自らマティーニを作り振舞っていました。国のトップが愛飲すれば、それに従いセレブと呼ばれる人も愛飲する。そんな流れからマティーニの地位は上がっていったのです。
戦後の連合軍もその影響から、日本のBARで大量のマティーニを消費しました。そこから巣立ったバーテンダーもマティーニに特別な感情を残し、それが現代まで受け継がれているのです。
上級者ほど敬遠する?
そんなマティーニですが、BAR上級者ほど飲む機会が減るという不思議な傾向があります。
マティーニはアルコール度数も高く味のインパクトもあります。そのため「飲むと、エンディングテーマが流れてきてしまう」そんな存在です。そのため、様々なお酒やバーテンダーとの会話を楽しみたい上級者ほど、マティーニから遠ざかるのです。
つまり、お酒やBARを知れば知るほど「数あるカクテルやお酒の中のひとつ」というマクロ的視点を持てとも言い換えられます。
マティーニは確かにカクテルの王様という称号を得ており、作り手も飲み手も注文すると背筋を伸ばしてしまいがちです。
しかしあくまでマティーニは数あるお酒の中の一種類にすぎません。余計な緊張感を持つのではなく、リラックスして接した方がよりマティーニの魅力に気づけるはずです。
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